英国情報

Vol.35

~”イングリッシュ・ジェントルマン”:英国スーツに込められた意味~

【スーツの起源】

現在、紳士の”正装”としてもっとも連想されるのは「スーツ」ではないでしょうか。
ビジネスをはじめ様々なシーンで幅広く活躍し、そのデザインも多岐にわたります。

今回の英国情報では、英国発祥とされる「スーツ」の歴史を紐解きつつ、そのルーツを生みだしたブリティッシュ・スタイル、またDAKSのスーツについてご紹介させていただきます。

スーツの原型は19世紀の英国で生まれたとされていますが、起源は更に古く、16世紀にまで遡るといわれています。その起源は「フロック」と呼ばれる、ヨーロッパの農民が農作業や外出の際に着用した丈の長い服でした。この「フロック」が、上質な素材と洗練された仕立てを施されることにより、「フロックコート」と呼ばれる一般市民の外出着に進化していきます。

18世紀のフロックコート。襟はフラットなものが主流だった
(画像=パブリック・ドメイン)

第一次大戦当時の英国陸軍の礼装用フロックコート
将官用の正装として現在も使用されている
20世紀初頭のフロックコート
(画像=パブリック・ドメイン)

フロックコートが誕生した18世紀、シャツ・パンツ・ベストに加えて、ネクタイを合わせるフロックコートスタイルが英国紳士の正装となり、スーツ三つ揃えの確立となりました。これが現代スーツの原型と言われています。

その後、朝の散歩用に歩きやすく前裾を大胆にカットした、モーニングコートや、乗馬用に改良されたテールコート(燕尾服)が登場しますが、これらを貴族が着用したことで礼服化され、現在でも正装としての役割を果たしています。


1901年のモーニングコート

1919年のヴェルサイユ条約締結時の写真
各国首脳もモーニングコートを正装として着用
(画像=パブリック・ドメイン)

フロックコートもモーニングも、屋外着用を目的としたものでしたが、やがて室内でくつろげるようコートの裾が腿の中程までカットされ、現在のジャケットスタイルに近づいていきます。その代表がスモーキングジャケットで、当時の貴族たちが屋内で喫煙の際に、煙や灰から衣服を守るためにこのジャケットを羽織ったことから名付けられました。そのスモーキングジャケットは、室内着(ガウン)を原型とする為、素材にはシルクやベルベットが使用されていましたが、このスモーキングジャケットが、後のタキシードの原型となります。そして、このタキシードが現在のスーツの起源と言われています。

名作「ガス燈」でシャルル・ボワイエが着用したスモーキングジャケット
(画像=Flickr: Debbie Reynolds Auction – Charles Boyer “Gregory Anton” burgundy smoking jacket from “Gaslight”)
https://www.flickr.com/photos/26728047@N05/5852142328

スーツの起源・歴史には、上記のような英国貴族に由来するものから、軍服からの派生など諸説ありますが、いずれにせよ、その時代の背景に伴って少しずつ形を変えながら現在のスーツスタイルが確立されていきました。

その後のスーツは、年とともに進化を経て、20世紀初頭に現在の形の幅タイが登場し、次第により軽快感のあるスーツ生地開発が進みました。当時のスーツは、短い背広丈にワイド・ラウンデッド・ショルダーの肩、極端に広い胸幅が特徴でした。

また、色もそれまでピンクやラベンダー系の比較的カラフルな色目が多かったのに対し、今日の定番であるグレーやネイビーへと代わってきたのもこの20世紀初頭でした。1920年代にもなると、アメリカの著しい経済成長と共にビジネスマンが影響力を持つようになります。そして、ゴルフやテニスなどのスポーツが人気を集め、1960年代にはアイビー・リーグの学生がスーツスタイルを一つのヤングファッションとして確立させるなど、時代と共に国や地域によってそれぞれの特徴が出てきました。

 
【英国スーツの起源:サヴィル・ロウ】

時代、そして文化をも反映し、その国や地域によってそれぞれの特徴を持ち始めたスーツ。
今日では、「本物のスーツスタイルとは?」は結構あいまいになってきているのではないでしょうか。もちろん、「身だしなみ」、つまり「正装」的な意味合いが主ではありますが、様々な着こなし方、柄や素材、コーディネートの仕方など、ファッション雑誌でも多く取り上げられ、多様化しています。
ここからは、スーツの起源でもある英国調スタイルをご紹介し、スーツが世界に普及し変化していく中で、「これぞ本場のスーツ」という、「ブリティッシュ・スタイル」とは何かをご紹介してまいります。

バーリントン・ガーデン側から見るサヴィル・ロウ
(”Savile Row from Burlington Gardens”)
(画像=Dave Fergusson – http://www.geograph.org.uk/reuse.php?id=1458130

「英国のスーツ」といえば「サヴィル・ロウ」、と連想する方は多いはず。
まずは、英国スーツの起源でもある「サヴィル・ロウ」をご紹介致します。

サヴィル・ロウは1731年と1735年にバーリントン地区開発の一環として整備され、当時のバーリントン伯爵・リチャード・ボイル夫人ドロシー・サヴィルの名前を取ったと言われています。当時、サヴィル・ロウは軍の関係者やその家族の居住エリアだったようで、その後1800年代に入ると、産業革命と共に富を得た紳士階級の間で服飾に関する興味が出始め、「服」の聖地的場所となっていきます。そして、1846年には、現存する仕立て服店の中でサヴィル・ロウ最古として知られるヘンリー・プールが店をオープンし、「紳士服仕立て街」としての地位を確立していきました。

Richard Horwood(地図製作者)の1819年当時のロンドン市内マップ。中央がサヴィル・ロウ
(”Savile Row (then called Savile Street) as shown on Richard Horwood’s 1819 map of London”)
(画像=パブリック・ドメイン)

この「仕立て服店」は、英語では「ビスポーク・テイラー」と呼ばれます。
その語源は、「お客様の要望に合わせた服を仕立てる」という営業スタイルから、「お客様が希望を話される」、つまり「話す」という意味の英単語”Speak”を受身形にした”Be spoke”から生まれたとされており、この言葉の発祥の地と言われるのがサヴィル・ロウとも言われています。かつては、ウィンストン・チャーチル元首相やネルソン元英国海軍提督、そしてチャールズ皇太子などの英国王室の方々もこのサヴィル・ロウを訪れていたということから、Golden Miles of Tailoringの異名も持っています。

1944年当時のヘンリー・プール店での仕立て風景
(画像= Imperial War Museum – http://www.iwm.org.uk/collections/item/object/205201219

 

【”The British Style(ブリティッシュ・スタイル)”】
スーツのルーツともなった英国。その後、時代と共に各国に普及し、それぞれの文化やトレンドで、今日では一言でスーツといえども数々のバリエーションが存在します。

ここでは、そのスーツのオリジンである「英国スーツ」の特徴をご紹介します。

まず一つは、スーツに対する「意識」です。

もともと、サヴィル・ロウは産業革命後、紳士階級の間で衣服に対する興味が高まったことによる一つの「街」として発展したわけですが、その背景には特権階級の「仲間意識」というものが強く現れています。これは上流階級の「正装」という発想に加え、今日のビジネスシーンにも言えることですが、ビジネスをする者の衣装、つまり同じグループに属する人々の身だしなみ的な発想です。これが、「個々のお洒落」というイタリア流とは違う点かもしれません。今でもスーツに対するこの発想は残っており、学校の制服、オリンピック等のナショナルチームの選手が全員おそろいのスーツを着用するなど、「正装=仲間を表現する衣装」という意味があります。

King’s College Londonでの集合写真。
同校は、英国のロンドン大学を構成するカレッジのひとつであり、ジョージ4世及び初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーによって1829年に設立された、イングランドでは4番目に古い名門大学。その名残もあり、「スーツ」=「制服」が今なお受け継がれている
(画像= King’s College Choir Associationホームページより http://www.kccaonline.org/choir_archive_annual_photos.html

制服を着たEton Collegeの生徒達。Eton Collegeは、首相など多数の政治家を輩出している英国屈指の名門校で、独自の用語や伝統が数多く残されていることでも知られる。特に黒の燕尾服、チョッキ、ファルスカラー、ピンストライプのズボンにタイという制服は今も変わらず異彩を放っている。「正装」=「仲間」の原点でもある。
(画像:Daily Telegraph (Photo : Rex)より)

また、「英国調スーツ」のデザイン・仕様的な特徴は、「肩巾がタイト目に仕立てられている」、「襟幅が小さめ」、「ウエスト絞りがタイト」などの点があげられ、これらは力強い男性の身体をきれいなシルエットで見せる、という意味合いも含まれています。また、生地の色柄も、あまり独創的なものや奇抜なものは好まれず、一般的にはダークネイビーやダークグレーをベースとした色を使い、派手さの控えたものが主です。これは、もともと「お洒落」としてのスーツよりも、「紳士のユニフォーム」的な意味合いが強かったことが由縁かもしれません。

英国の伝統的スーツは、ごくごくベーシックな中に、真のジェントルマンが宿る、という発想から、見た目より男性らしさを強調できるかたち(シルエット)、素材、そして仕立てへの探究心が重んじられている、という点が特徴です。この発想が、トラディショナルな英国スタイルには必ずといっていいほど、ハット、ステッキ、懐中時計等がセットで存在する理由で、やはり英国調スーツは「ジェントルマン」の象徴(ジェントルマンを表現する一つのスタイルであることが伺われます)としての意味合いが強いことが、その良さでもあります。

この、「ベーシックな中に、真のジェントルマンが宿る」というスーツに対する価値観は、今なお「ブリティッシュ・スタイル」の本質となっており、DAKSのスーツもその例外ではありません。

 
【受け継がれる”ブリティッシュ・スタイル”】

1894年、DAKSも一つのビスポーク・テイラーとして「シンプソン・テイラー」をオープンしました。その創業者であるシメオン・シンプソンも、お客の要望に合ったスーツを一つ一つ丁寧に作り上げることをモットーとし、次第にその品質は世間が認めるところとなり、あくなき探究心でその人気を確かなものとしていきました。

創業者シメオン・シンプソン(左)/1894年ビスポーク・テイラーとしてオープンした当時の看板。
今尚、創業当時の精神を忘れることなく、ロンドンのDAKS本店アーカイブルーム内に飾られている。

20世紀初頭には、世界で初めてテイラードの機械化に成功し、当時主流だった仕立て服と同様、品質の高い既製服を生産することを追及し続け、「シンプソンスーツ」として評価を得るようになったDAKSは、イギリス国内から海外にも販路を拡大していきました。それでもなお、DAKSは本来のスーツのあるべき姿、機械化ではあってもお客様の要望に合った商品、つまり「ビスポーク(Be Spoke)」の精神は忘れませんでした。
その代表的な工場が、1930年代に、北ロンドンのストーク・ニューイントンに建てられたストーク・ニューイントン(Stoke Newington) 工場であり、その「ビスポーク・テイラー」であることへのこだわりが、DAKSのビジネスがより一層拡大する理由の一つでもありました。

1930年代のストーク・ニューイントン工場での生産風景。創業当時からの「ビスポーク」の精神を受け継ぐ

今シーズン、DAKSではその英国ファッションの象徴とも言われるスーツに改めて着目し、英国紳士が追い求め、そしてDAKSがブランドの原点として、創業以来拘り続けてきたスーツにスポットをあて、今まで以上のバリエーションで、極上の着心地を追求した商品をご紹介しております。

英国トラディショナルブランドとして、トレンドに左右されない落ち着いた雰囲気の中に英国紳士を漂わせる、他にはないスーツコレクションを是非ご覧下さい。

《2015年秋冬スーツコレクション》

DAKS紳士服に関する問い合わせ先:
株式会社オンワード樫山 お客様相談室 0120-586-300
これらの商品はDAKS2015年秋冬紳士カタログでもご覧いただけます。
<2015年秋冬紳士WEBカタログ>:
http://www.daks-japan.com/catalogue/2015awmens/

今回の英国情報《”イングリッシュ・ジェントルマン”:英国スーツに込められた意味》は、いかがだったでしょうか。

現在、私たちの日常に欠かせないスーツは、農作業着の「フロック」を起源とし、その時代背景や地域、人々の着用シーンによって様々な進化を遂げてきました。

今回の英国情報をきっかけに、皆様にもDAKSをはじめとする「スーツの起源、ブリティッシュ・スタイル」にぜひ挑戦していただき、今回ご紹介した「スーツの歴史・その意味合い」に思いを馳せていただけたらと思います。

【英国情報に関する問い合わせ先】
ジャパン・ダックス・シンプソン事務局(三共生興株式会社内) TEL:06-6268-5375